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ご主人様の愛はこの身に注がれる
第1章 ある秋の日に

さぁぁぁ─。
掃除の為に開けた窓から少し冷たい風が頬を撫でてさってゆく。
公爵家の庭が一望出来るこの部屋は公爵様の書斎になっており、アンティーク調のデスクと、部屋の両隣へはハードカバーの本が所狭しと敷き詰められています。
部屋には微かに黄色く色付いた葉がひらひらと舞い落ち、赤い絨毯の上に落ちました。イチョウの葉の枝の部分を摘んで持ち上げれば、この屋敷へと招かれた事を思い出しました。
それはもう、春の事。
新緑を告げて、庭には色とりどりの花が見事に咲き誇っていましたが、庭の中央にある噴水は枯れ、中には砂埃が入り込み、屋敷は荒んだ状態になっていました。
ギリギリの所を保っていた訳ですが、子爵家であったうちは、とうとう没落して社交界から姿を消しました。
幸いにも家族全員は無事ではありますが、うちに残ったのは多額の借金。
その時、救世主とも思われる存在の、この屋敷の主であるグレン様が借金の肩代わりをしてくださいました。
その代わり、私が借金の肩代わりとしてこの屋敷へと、メイドとして働くようにと仰ってくださいました。仕事を探さなくては、と焦燥感に陥っていた私としては、とても嬉しく思い了承した次第でした。
おかしな事を、と思いましょうが今の私にとっては、それが最前の選択だと思っていたのです───。
「アメリア、探したよ。こんな所にいたのかい?」
後ろから、柔らかな声音が聞こえた。
藍色の髪に、グレーの瞳を優雅に細めた笑は、社交界の薔薇様と言われるだけあって、上品な微笑みはいったいどれだけの令嬢の心を掴んだのでしょう。
「何か、お申し付けでしょうか。ご主人様」
そう。
この方こそが、この屋敷の主人であり、筆頭公爵家のグレン・フェリシア・アバンティ様だ。

