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防音室で先輩に襲われて…
第6章 そういう涙は興奮しない
そんな時だった。
高校3年の春、彼はひとりの女に目を留めた。
(きっかけは…昼の放送だったか)
弁当の時間。生徒は喋るのに夢中だから、あの日も昼の放送に耳を傾けるクラスメイトはひとりもいなかった。
大げさに言っているわけではない。本当にひとりもいなかった。
かくいう椎名も、初めてその放送に意識を向けたのがあの日だったのだから。
放送部らしい澄んだ声でありながら、どこか自信無さげにも聞こえるその声は、誰かに訴えかけるには不向きである。
『──…では最後にいつもの小話(コバナシ)です、わたしが、今日…』
だいたいこんなの、適当に音楽でも流しておけば良いだけなのにな
そうやって、スピーカーの向こう側で話す " 誰か " を内心、見下しながら、友人に囲まれた椎名は教室で昼食を食べていた。
『わたしは今朝、校門で、自転車に乗った人とぶつかりそうになりました』
「……」
『驚いて思わず下を向いて固まったわたしでしたが、相手の人はすぐに声をかけてくれました。大丈夫?と。優しい声でした。わたしはその声に安心して…謝ることができました。ごめんなさい、と』
その放送はいつものように、退屈で
『自転車に乗ったその人は謝ったわたしに対して笑ってくれました。…とても気持ちのいい笑顔です。もし…わたしが逆の立場だった時、とっさにこんな笑顔を浮かべられたでしょうか。よくわかりません、ですが』
新鮮さもない。
『ですがとても……
……素敵な、コトです』
素敵なコト
なんの面白みもない昼の放送がこうして終わり──その後、どういうわけか椎名の耳に残った言葉。

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