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防音室で先輩に襲われて…
第6章 そういう涙は興奮しない

 " 素敵 " という言葉自体はそこかしこにありふれている。しかし彼の興味をひいたのは、その時の言葉が含み持つキラキラとした響きであった。

 飾り気のない、クセの無い声で、しっとりと控え目な話し方で

 ああ……そうか、彼女は本心でこの言葉を使っているのか。わざわざ気に留める必要もないであろう、あまりに些細な出会いに。

 椎名はあの日、 " 自分に欠落している何か " ──その答えに辿り着くためのヒントを見付けた気がした。

(あれがきっかけで……俺は乃ノ花を知った)

 放送室を訪ねれば声の主がわかった。

 椎名が持たないものを、持っている乃ノ花。

(俺が持たないものを持っている女……)

 ならば乃ノ花が生きる世界は、明るく温かいに違いない。冷めた世界に生きる椎名とは、まったく別の世界にいるに違いない。

 ──そう思っていた。



 …だが現実は違った。



(乃ノ花は毎日ひとりで孤独に戦っていた)

 いや─……孤独 " と " 戦っているのかもしれない。現実の乃ノ花はとても窮屈で、生きづらい世界で戦っているのだ。




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