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助教 沙霧
第17章 崩壊の序曲
午後三時。冬の低い陽射しが、大学図書館の閲覧室に長い影を落としている。
沙霧は、高い書架に囲まれた最奥の机に座り、中世の歌論書『三代集の間』の校本を広げていた。周囲には数人の学生がまばらに座っているが、書庫特有の重苦しい静寂が、彼女を隔離された小宇宙の中に閉じ込めていた。
下腹部に秘めた真鍮の異物は、数時間を経て今や完全に彼女の熱を帯び、もはや異物というよりは、彼女の内側から突き上げてくる「欲望の芯」そのものへと変貌していた。
歩くたびに、呼吸を整えるたびに、その硬い感触が彼女の柔らかな肉を執拗に抉る。
沙霧は、翻刻用の鉛筆を握る指先が微かに震えるのを、もう隠すことができなかった。ノートの余白には、解読すべき文字ではなく、自らの情動を抑え込むための無意味な線が幾本も引かれている。
壊れてしまう…
理性の最前線で、その言葉が警鐘のように鳴り響いていた。
古典研究者としての矜持、二十五年かけて築き上げてきた「瀬川沙霧」という偶像。それらが、たった一本の金属の棒と、名も知らぬ男の言葉によって、砂の城のように崩れ去ろうとしている。
沙霧は、高い書架に囲まれた最奥の机に座り、中世の歌論書『三代集の間』の校本を広げていた。周囲には数人の学生がまばらに座っているが、書庫特有の重苦しい静寂が、彼女を隔離された小宇宙の中に閉じ込めていた。
下腹部に秘めた真鍮の異物は、数時間を経て今や完全に彼女の熱を帯び、もはや異物というよりは、彼女の内側から突き上げてくる「欲望の芯」そのものへと変貌していた。
歩くたびに、呼吸を整えるたびに、その硬い感触が彼女の柔らかな肉を執拗に抉る。
沙霧は、翻刻用の鉛筆を握る指先が微かに震えるのを、もう隠すことができなかった。ノートの余白には、解読すべき文字ではなく、自らの情動を抑え込むための無意味な線が幾本も引かれている。
壊れてしまう…
理性の最前線で、その言葉が警鐘のように鳴り響いていた。
古典研究者としての矜持、二十五年かけて築き上げてきた「瀬川沙霧」という偶像。それらが、たった一本の金属の棒と、名も知らぬ男の言葉によって、砂の城のように崩れ去ろうとしている。

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