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助教 沙霧
第22章 逢瀬
 扉の向こう側は、外気よりもさらに濃密な、古びた紙と革、そして微かな白檀(びゃくだん)の香りが混じり合った独特の空気に満ちていた。
 照明は極限まで落とされ、長い廊下の奥にある一室から、オレンジ色の淡い光が漏れ出している。沙霧は、何かに導かれるように、音を立てないよう細心の注意を払いながらその光へと歩を進めた。

 「……入りなさい、沙霧」

 部屋の中から響いたその声に、沙霧の全身は一瞬で凍りついた。
 低く、落ち着いていながらも、聴く者の脊髄を直接揺さぶるような圧倒的な支配の響き。画面越しに、文字というフィルターを通して彼女の魂を蹂躙し続けてきた、あの「誉」の声。それはまるで沙霧がこれまでもずっと聞き続けてきた、なじみ深い声であるかのようなに沙霧には思われた。

 弾かれたように扉を押し開け、吸い込まれるように部屋の中へと足を踏み入れる。
 そこは、天井まで届く書架に古書がひしめき合う、まるで中世の修道院の図書室のような空間だった。部屋の中央、低いランプの灯りに照らされた高い背もたれの椅子に、一人の初老の男が座っていた。

 磨き上げられた革靴、膝の上で組まれた指先。
 親子ほど年の離れているであろうその紳士の、圧倒的でいながら慈悲深くも思える視線が、部屋の入り口に立ち尽くす沙霧を静かに射抜いた。
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