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お題小説第9弾『彼女の汗』
第1章 彼女の汗

「ふぅぅ、まだ六月なのにすごく暑いわねぇ」

 美冴さんは…
 抜けるような初夏の青空を見上げながら、そう呟いた。

「そうっすね、今年は空梅雨みたいで…」
 
「そうなんだぁ、じゃ、一気に夏になっちゃうわねぇ」

「そうみたいっす、なんかここ最近の季節は、四季じゃなくて、すっかりニ季っすよねぇ…」

「あら健太、旨い事言うじゃん」

「あ、いや…」
 でもここ数年本当に、春と秋が失くなってしまったかの様に感じていた。

「そうねぇ、冬も毎年暖冬って騒いでるしねぇ…
 もう三月、四月から暖かいを通り越して暑い日沢山あったしねぇ」
 
「そうっすね」
 そんなとりとめのない話しをしていると、初夏の風を伴って…
 ホームに電車が入ってきた。

 その初夏の風は、美冴さんの柔かな髪をフワっと舞い上がらせ…

「あ…」
 一瞬、白いうなじを露にし、ドキッと高鳴らせる。

 その一瞬見えたうなじには…
 キラキラと、僅かな汗が光って見えた――

「じゃまた明日、会社でね」
 美冴さんはそう言って、スリムなジーンズに白いスニーカーの脚を、スッと踏み入れ電車に乗り…
 閉まるドアの向こうから、爽やかな笑みを浮かべ、手を振ってきた。

「はい…」
 オレも手を上げ、軽く振り返し…
 ゆっくりと電車が走り出していく。

『また明日、会社でね…』
 美冴さんは会社の四つ歳上の先輩で、付き合い始めてから、まだ…
 僅か二週間しか経っていない。

 いや、もう二週間だ――
 そして二度目のお泊まりをしての、帰宅の電車であった。
 また、会社のスーツ姿とは打って変わったカジュアルな私服にもときめいていた――

 走り去る電車を見送りながら脳裏には…
 さっきチラと見えた白いうなじの汗が、残像の如くに浮かんでいた。

「ふぅ…」
 そして無意識にも下半身の奥が昨夜の逢瀬を思い浮かべ、微妙に疼き始めてしまっていた。

 昨夜の美冴さんの…
 胸元の汗…
 そして、全身をしっとりと滲ませていた、甘い薫りの汗…
 どうやら、俺は、汗フェチらしい…

 いや、美冴さんフェチだ――

 彼女の姿を思い返す度に高鳴り、昂ぶり、
 今夜は、とても、我慢できそうにない――
 
 初夏の風…

 彼女の汗…

 白いスニーカー…

 それら全てが、オレの心を、惑わせる――
  

          完


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