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ほしいままに
第20章 私はあの人が欲しい(森川澪奈)✩
「その笑顔が勘違いさせるんだよ。俺に散々愛嬌を振りまいて好意をちらつかせておきながら、“香宗我部君とは付き合えない”なんて」
ゴミ袋の中の空き缶が、カタカタと音を立てる。ゴミ袋を強くつかんでいる香宗我部君の手が震えていた。
「それでいて他の男とやりまくって、そのくせ職場では無邪気に笑って、なのに契約も取りまくって。僕がいつ、東京池袋支店の座を譲ってくれと頼んだ?なんなんだ。俺をどこまでバカにする気?」
「バカにする?そんな…」
昂っていく香宗我部君に煽られるように、私の中で緊張と高揚がせめぎ合った。
「澄ました顔で俺を振って、手に届かない女を気取ってるの?ほんとは安い女のくせに」
「酔ってるみたいだからもう帰ったほうがいいよ」
引き上げた口角が震えてしまう。怒りをあらわにする香宗我部君が怖かった。
彼が持ったゴミ袋を引っ張ろうとして、手首を掴まれた。
「もう付き合ってほしいなんて言わないよ。そのかわり、やらせろよ。誰だっていいんだろ」
「やめて」
私を見つめる香宗我部君の目に、かすかに涙が浮かんでいた。
手首が力いっぱい絞めつけられて身動きが取れない。私はもつれる足で後ろに下がった。
香宗我部君の体が傾いて、私に覆いかぶさる。その重さで私の体が後ろに傾いた。
バランスを失って倒れた。ゴッ…という鈍い音がした。
頭の後ろを殴られたような衝撃を感じた後、割れるような痛みが襲った。
体を床に打ち付けてあおむけになった。
視界に、ポツリと墨が落ちるように黒いシミができた。
シミは徐々に広がって、見えていたはずの白い天井を真っ黒に染め上げるようにして、何も見えなくなった。
遠くで、後藤支店長が私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
~第18章 私はあの人が欲しい(森川澪奈) 終~

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