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悪癖とトラウマ
第8章 一難去ってまた一難
「やっぱ、長袖か?」

デパートの入り口付近にあるエレベーターに乗り5階にある雛拓の行きつけだと言う服屋に入ると前を歩きながら雛拓が訊ねてきた。
こいつは僕の手首の傷に関して詳しく知ってはないだろうけれど、僕が年中長袖なのを見て気を使ってくれているんだろう。

「あー…うん」

正直暑いけれど、仕方ない。

「けどそろそろ暑くなってくるしなぁ……あ」

辺りを見回していた雛拓は足を止めると近くにあったカーディガンをとると

「これなんかどう?」

と満面の笑みで訊いてきた。


「へ?」

突然のことにきょとんとしていると雛拓が説明を加えてきた。

「サマーニット!コレすごく便利だよ下白シャツでもいいしTシャツでもいいし」
「へぇ…」
「涼しいけど肌出さなくていいから、良いんじゃないかな」
「そうだね…」

うん。
サマーニット。
初めて聞いたし見た。

「色もこっちが似合うんじゃないかな…あ、このループタイと合わせるとか…」

初めてのことに異常に怖じ気づくような。
こんな臆病者になったのはいつからだっただろうか。

「おーい…?」

ぼうっと突っ立っていたせいか、雛拓が訝しげに顔を覗いてきた。

「…あーごめんちょっと腹が痛くて…ちょっとトイレ行ってくる…」
「おう…?一緒に行くか?」
「いや、いいよ。後でな」

不審に思われないようなスピードで踵をかえした。

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