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近くて甘い
第57章 紳士と獣
突拍子もない加奈子の言葉に要は片眉を上げたあと、ハハっと乾いたような笑い声を出した。



「…………したよ…」




要のセリフに、加奈子は軽く目を見開いてワナワナと唇を震わせた。



そっか…やっぱり……




「自分勝手に…強引に唇を奪ったこともあるし…」





私の唇はあの一度きり…


それ以来奪ってはくれないけど…





「最終的に思い止まったが、無理矢理に抱こうとしたことは、あったよ…」





私のことは抱こうとしてくれないけど…。





「そうですか…」




まざまざと、真希と自分の気持ちの差を見せつけられたような気がして、加奈子は無理矢理に愛想笑いをしていた。



片想いは…



終わったようにみえて…




まだ




終わってない──…





「まぁ…そんなこともあったけど…過去だからね。


あの時よりは成長していることを願うよ」





何の気なしにそう言った要は俯いたままの加奈子に首を傾げた。


仕事で疲れているのに、毎晩無理させているかもしれない…




「そろそろ…帰ろうか…」



「え…?」



「……送るよ…疲れただろう」




カップを片付けて立ち上がった要のスーツの裾を加奈子は無意識に掴んだ。


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