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人妻コレクション~他人に抱かれる妻たち
第10章 菜々姫~囚われた戦国の美妻
家来数人に囲まれた状態で、菜々は台所にまで降りた。

幸いに、その一角はまだ火の気配は感じられない。

だが、敵方が襲来する声が、確実に届きつつある。

「うかうかはしてられぬな」

菜々は、脇にいる家来にそっとささやいた。

そのときだった。

廊下の別の方角から、鎧姿の数名の家臣たちが足早にやってきた。

中央に隠された人間に、菜々は思わず声をかけた。

「殿」

「おお、菜々か・・・・」

勝重は家臣たちをかきわけ、菜々の前に歩み出た。

そして、人目をはばかることなく、その肢体をきつく抱きしめた。

「勝重様・・・・・・」

菜々は、夫の名を口にし、その胸元に顔を埋めた。

しばらくの間、2人は互いの記憶を刻み込むように、抱き合った。

「菜々、これが今生最後となるやもしれぬ」

「殿、わらわは・・・・・」

「何も言うでない。菜々、わしは・・・・・・・」

「殿・・・・・・・・」

「わしは、この三年間・・・・・・」

「・・・・・・・」

「そなたと共にいて、楽しかったぞ・・・・・・・」

言葉を返すことができず、菜々は泣きじゃくりながら、勝重の胸に顔を埋めた。

「殿、奥方様、これで終わったわけではありませんぞ」

「そうじゃな・・・・、我が藤川家はここから再興するのじゃ」

勝重は菜々の顔を引き上げ、家臣の言葉にそう答えた。

妻と同様に、勝重もまた貧しい農夫の格好となっていた。

「菜々、逃げるのじゃ」

「殿・・・・・」

「落ち合う先は決めたとおりじゃ。奇跡が重ねれば、近いうちに必ず再会できる」

勝重と菜々は、唯一中立を貫いている隣国に逃げ込む算段でいた。

既に二人を受け入れる旨の密使が、こちら側に届いている。

だが、そこに行き着くまでには敵方の幾重もの包囲網を突破する必要があった。

藤川方は策略を練った。

夜半、闇にまぎれて密かに城を脱出する。

勝重と菜々は、最小限の家来を連れて別々に逃走を図る。

偽装を貫くため、二人とも農民の姿になりかわって。

「菜々、敵は近い。もう行くのじゃ」

「殿、必ずや・・・・・」

「大丈夫じゃ。我らには神のご加護がある」

菜々は、胸元をそっと抑え、瞳を閉じた。

二人は昨年、耶蘇教への入信を果たしていた。
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