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人妻コレクション~他人に抱かれる妻たち
第10章 菜々姫~囚われた戦国の美妻
屋敷裏に切り立った崖が迫っている。

その岩肌に掘られた小さな牢。

甚八はそこに閉じ込められていた。

牢の見張りをするのは、年若い足軽兵であった。

藤川方でこの地まで逃走を果たした、数少ない家来の一人だ。

深夜、牢にやってきた正室に彼は狼狽した。

「ここを離れるのじゃ」

「しかし、奥方様」

「わらわの命じゃ。そなた、背くというか」

「・・・・」

「わらわが責任を持つ。はよう行くのじゃ」

「ははっ」

彼は瞬く間に姿を消した。

牢の鍵をそこに残したまま。

漆黒の闇に包まれた牢に近づき、菜々は低くささやいた。

「甚八・・・・・・、甚八・・・・・・・」

闇の中、何かが動く。

瞳が光り、いかつい両手が牢を握りしめる。

「奥方様・・・・」

拷問を受けたのか、血まみれの甚八がそこにいた。

「甚八・・・・」

菜々は涙を流し、牢内から伸びてくる甚八の指を握った。

「奥方様、あやつらを生かしておくわけにはいかなかったのです」

甚八は、彼もまた涙を浮かべ、牢越しに菜々にささやいた。

「あの屋敷での始終を目撃した彼らを生かしておくわけには」

「そなた・・・・・」

「奥方様と拙者のことを秘しておくために」

「甚八、そなた、わらわのために・・・・」

「しかし、このようなことになってしまい・・・・」

「甚八、おぬしは何もわるうない・・・・」

菜々は、甚八の指に強く己の指を絡めた。

「わらわは、あの夜・・・・、うれしかったぞ・・・・・」

「奥方様・・・・・・」

牢内で慟哭する甚八を見つめ、菜々は決意を固めた。

地に置かれた鍵をとり、牢を開ける。

「甚八、逃げるのじゃ」

「しかし・・・・・」

「わらわの願いじゃ。そなたには生きてもらわねば困るのじゃ・・・・」

やがて、その場に崩れ落ちた菜々を救うように、甚八は牢の外に出た。

菜々の震える肢体を抱き上げ、唇を強く吸った。

「あんっ・・・・」

菜々の手が、甚八の背で震える。

「菜々様・・・・・」

甚八は、初めて奥方の名前を口にした。

男と女の舌が強く絡む。

口づけの後、甚八は菜々を見つめ、穏やかな笑顔を浮かべた。

「甚八・・・・・」

「さらばでござる」

そして、甚八は闇の中に姿を消した。

「ううっ・・・・」

牢にすがり、菜々はいつまでも涙を流し続けた。
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