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梨華との秘密
第6章 支社長の女
 テーブルの上に玉子焼きとサラダ、味噌汁が並んでいた。


「おはよう、三奈。良い匂いだ。明日食べられないんが残念やな。」


 三奈がオヤッという顔で、


「どうしたん?仕事?」


「うん、本社から社長とどら息子がくるんだわ。ほんで、準備と後始末。たぶん、会社泊まりかな。なんにもなくても、終電にはアウトやわ。」


「あらっ、二郎さんの会社の社長って、東京からよね?」


 三奈の瞳に残念そうな色が浮かんだ。


「うん、東京だわ。地方の支社は迷惑なだけだがね。それと、明日の夜は三人で買い物だからね、定時で帰ってくるんだ。良いかい、三奈。」


 彼女の顔に悦びが広がった。


「えぇ、明日は梨華も楽しみにしてるわ。なにを着ようか今から悩んじゃって。でも、今夜、ほんの少しでも帰って下さらない?」


「ふふ、甘えん坊だな、三奈は。もし帰れそうなら連絡するよ。それに、お前たちの声も聞きたいしね。」


「嬉しい!じゃあ我慢します。うふふ。」


 少し残念そうに、少し嬉しそうに三奈が言うと、


「パパ、明日の夜までお預けなんて、さみしいなぁ。でも、我慢するわ。でも、電話はしてね。してくれなきゃ、グレちゃうから。」


 梨華が加わり、おれは勝ち目のない立場に立たされたことを悟った。


「はい、お嬢様方、仰せのごとくに。」


 大仰にお辞儀をすると、三人とも吹き出し、ひとしきり笑いが部屋を包んだ。
 三人がテーブルにつき、食欲のままにたちまち胃袋の中に飲み込まれた。


「美味しかったぁ。ごちそうさん。ママは料理上手やな。俺は幸せモンやわ。」


「もう、パパったら。でも、嬉しい!」


 三奈の嬉しそうな微笑みに、梨華が割り込んだ。


「ホント、ママのお料理はいつも美味しいもの。明日からが楽しみぃ、うふふ。」


「ありがとう、梨華。嬉しいわ。あなたとパパに喜んでもらえると、張り合いがでるわ。」


 母娘二人の明るい声が、俺の心をチクリと刺した。


「そうそう、新しい家を建てようと思うんだよな。家族三人ユッタリ暮らせる家がいいなって思ったんだ。」


 えっ、という顔で三奈が俺を見つめ言葉の意味をを理解すると、俺に抱きつき喜びを爆発させた。
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