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みずいろの斜線
第1章 芽吹き
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ーーー何、あれ。
憤りのような恥ずかしいような何とも言えない気持ちを抱いてさやかは帰宅した。
部屋の扉がパタンと閉まると同時に何だか力が抜けてベッドにそのまま倒れ込む。
誰もいない講義室で見たキス。
ひとりは偶然同じ大学になった幼馴染みの男の子でひとりは知らない端正な顔立ちの女の子だった。
(いつのまに、あんな、あいつ……。)
それは静かなキスではなかった。
今にも事が始まりそうなほど、深く、執拗で、情熱的なキス。
女の子は戸惑った様子もなく、けれどもうっとりとして彼を見つめキスに応えていた。
けして幼馴染みの彼に特別な好意を持っていたわけではないが、なんだか先を越されたような釈然としない気持ちがさやかの中に湧いた。
ーーー…わたしなんて、まだ、あんなキスしたことないのに。
高校のときに一度だけ男の子と付き合ったことがある。
特別好きなわけではなかったけど、流れで付き合ってみようかみたいな話になり数ヵ月だけ。
キスは、一度だけ。
軽くくちびるが触れるだけで相手がひどく赤面していたのを覚えている。
さやかとしては「特別なことをした」という感覚でその日は不思議と大人になったような気がしたものだけど、
同時に「こんなものか」という少し期待はずれのような感覚があったことは否めない。
その後相手が別の女の子の髪を撫でながら廊下で話してるのを見て、自分でも子どもみたいだと思うけど一気に冷めて、この人は"そういう相手じゃない"と。
すぐにお別れを申し込んで会わなくなった。
恋に憧れていても、いい恋はそう簡単に落ちていないのだと思った。
大学に入っても、サークルに入ることもなく毎日最低限の講義とバイトをこなし帰宅する生活。
退屈だなぁ、旅でもしようかなあ、旅先で恋に落ちないかな、でもお金ないしなぁ、そんなことをぼんやり考えながら過ごしていた日々の中。
………幼馴染みのキスを見た。
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