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曇り空
第5章 暗闇の中で




「指名ありがとうございますっ」







常連さんの
恐らく40代後半であろう典型的な中年体型のサラリーマン





私がここで働き始めてから




いつも私を指名してくれる









「杏里ちゃん聞いてよお」







長々とつまらない話を聞き

適当に相槌を打つ






「大変ですねえ…」








「そうそう…それでさー…」





この人は
いい人なんだろうけれど




ほかのお客さんよりも
話したら止まらない





早く帰って
そう願わずにはいられない
そんなお客さん


「グラスお拭きしますっ」



話を遮るように私は

グラスの周りいっぱいに



まとわりつく水滴を





ポーチからハンカチを取り出し






慣れた手つきで拭いた








「杏里ちゃん…」





ゾクッ──────────────





サラリーマンのおじさんは






グラスを拭いている私の手に





自分の手を重ねてきてーーーーー




全身に鳥肌が立った













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