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毒舌
第17章 別離の刻
問いかけに答えもせず
おりょうは笑って流す。
無性に苛つく。
「ねえトビ。もうここへは来ないほうがいいわ」
雪に閉ざされて以来
久しぶりに来てやった俺に
そんなことを言う。
「私など所詮人間の女。貴方が護るべきたいせつなものはもっと他にあるでしょう」
たかが
一人の人間にかまけ――と
凛としたおりょうの目は
口先以上に
深く抉って語る。
「失ってはいけないの。」
「俺に指図するとは何様だ?」
手に入れて尚
決して手には入らない、
おりょうという女は
そういう人間だった。
「貴方には生きてほしいのよ」
「そのためにお前を手放せと?見くびるんじゃねえよ」
荒々しく肩を抱き寄せても
抵抗をするどころか
冷たい手のひらを
懐に這わせて来やがる。
まるで別の人格が
口と手に
宿っているかのように
この心を掻き乱す。
「どっちなんだよ、」
「愛しているわ?」
当然、と謳う。
愛ゆえの拒絶と
愛ゆえの許諾、
本能や欲望を上回る
理性を失わない
願望を語る口。
「少し黙っていろ」
冷えた肌に熱を落として
今日も毒舌を這わす。