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毒舌
第35章 呪縛
完全に頭も体も心もすべて、トビに支配されちゃったみたいに。もうされるがままなの。意識も記憶も遠ざかって、トビが与えてくれる快楽だけに溺れてしまう。恥ずかしいとか、寂しかったとか、そんな感情さえ忘れてしまうのよ。
満たされていくことだけ、理解できるね。
「私、前は気絶しちゃっててぜんぜん覚えてない」
抱き合いながらポツリと呟くと、耳許でトビが微かに笑う。
「神格の器に邪魔されたからな」
「???」
意味のわからなかった私がトビの目を覗き込むと、熱を帯びて潤んだ目がキラキラと光って見える。その奥に多分だらしない顔の私が映っていた。
「糞神も探してただろ……あぁ、もっとちゃんと説明しないとな。……どこから話せばいいんだ?」
「えと……最初から?」
私の体を撫でながらトビが話してくれた。人間の魂は神様が管理をしていること。妖怪のトビをやっつけようとして、私の……おりょうの魂を改造したこと。だからこの魂は妖怪に反応していたこと。トビが惹かれたように私も惹かれた――それは神様の仕組んだ必然だったこと。
「神が自分の力の一部を魂に植え付けた。それが神格の器だ。お前の中にあったが今はもうない」
「…………」
「俺が奪ってやった」
つまり?どういうことなのかさっぱり読めずに神妙な顔をしているとトビが首筋に舌を這わせてきた。
「お前はもう普通の人間になった」
「わた…ずっと普通の人間だもんんっ」
「妖怪に狙われることはもうねえよ」
何も変わった気はしないのに、何かが変わったらしかった。私は今もトビが大好き。そんな神様の器なんかなくても、ずっとトビが大好き。
「トビは、もう、私のこと、……好きじゃないの?」
「はぁ?」
私が涙を浮かべているとトビは首を傾げた。
「お前ほんとう救いようのねえ馬鹿だな。大馬鹿だ」
「だって器がない私なんか、魅力もないんでしょ?」
トビのあのキスには麻薬的な刺激があったのも(麻薬は知らないけど)、神様の仕組んだ罠だったなら。私にはもう妖怪を引き寄せる魅力がない。
小さくため息をついてトビが続ける。
「俺ももう妖怪じゃあねえ」
「……人間になったの?」
「人間が空を跳ぶかよ」
じゃあトビは一体何になってしまったんだろう。