この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
毒舌
第38章 ≡最終章≡
少女は本を読んでいた。哀しい場面だった。食い入るように集中して読んでいると、耳元で軽く咳払いが聞こえハッとする。
「ご、ごめんなさいアーガ。うるさかった?」
声を出していたわけではない。だがすぐ目の前の少年と顔を突き合わせ少女は小声で謝った。少年は少女を膝の上に座らせていたので、その抱き合うような至近距離では息遣い一つとっても相手に伝わってしまう。少年の背中に腕を伸ばして読んでいた本を、咳払いされたくらいで驚いて落としてしまっていた。
椅子に腰掛けたままの少年が長い腕で本を拾った。
「面白いの?」
「えっと…今盛り上がってる場面だった」
少女は鼻をすすって答えた。どうやらうるさかったのはこの鼻をすする音だったようだとようやく気付いて小さくなる。
「よく本なんかで泣けるな、ルタは」
「え、どうして?アーガも読んでみたらきっと面白いよ」
「いいよ。あとで内容だけ教えて」
アーガと呼ばれた少年は慣れた手付きで少女ルタの髪を撫でた。ルタは少しだけ不満そうに頬を膨らます。
「それだと私が見えたものしかわからないんだよ?」
「俺が読んだら別のもんが見えるの?」
「そうだよ。文字だけの世界を頭の中で描くんだから。私はアーガにはどう映ったのか知りたい」
アーガが笑うとルタにもその振動が伝わる。ルタは顔を赤らめてアーガにしがみついた。
「可笑しくないもん!」
背中をポンポンと叩きアーガはルタをなだめた。