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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第12章 第一部・第三話 【月戀桜~つきこいざくら~】 十六夜の月
「これは肥前屋の旦那」
美桜が珍しく狼狽の色を面に上らせ腰を浮かせた。
「ホウ、これは」
肥前屋と呼ばれた中年の男が小紅をまじまじと見つめた。肥前屋といえば、江戸でも名の知れた金貸しではないか。温厚そうな見かけだが、商売柄、大勢の人を泣かせているともいわれている。それほどの大物が美桜の知り合いだというのも意外だったが、美桜は更に思いがけないことを言った。