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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第12章 第一部・第三話 【月戀桜~つきこいざくら~】 十六夜の月
「今夜見たことは全部忘れろ。これから先、お前は何も喋るんじゃねえ。生命が惜しくばな」
栄佐は突き放すように言い、刀を元の鞘におさめた。
「行け」
顎をしゃくると、職人は〝へ、へぇ〟と素っ頓狂な声を上げ、震えながら立ち上がった。恐怖のあまり、初めは脚がもつれていて歩けなかった。途中で無様に二度転んだが、それでも生命には代えられないらしく、脱兎のような勢いで元来た方へと引き返していった。
栄佐は突き放すように言い、刀を元の鞘におさめた。
「行け」
顎をしゃくると、職人は〝へ、へぇ〟と素っ頓狂な声を上げ、震えながら立ち上がった。恐怖のあまり、初めは脚がもつれていて歩けなかった。途中で無様に二度転んだが、それでも生命には代えられないらしく、脱兎のような勢いで元来た方へと引き返していった。