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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第12章 第一部・第三話 【月戀桜~つきこいざくら~】 十六夜の月
満月の光が栄佐の端正な容貌をくっきりと浮かび上がらせている。その美々しい面は月明かりのせいか、少し蒼褪めて見えた。月光を浴びた彼の顔は美しさを際だたせていたが、その酷薄ささえ滲ませた横顔はどこまでも冷たく、作り物めいている。小紅がよく知る栄佐とはまるで別人のようで、よくできた精巧な美しい人形のようですらあった。
「先生、鼠はいましたかな?」
ややあって、また、あの脂ぎった猪顔の男が出てきた。
「先生、鼠はいましたかな?」
ややあって、また、あの脂ぎった猪顔の男が出てきた。