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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第14章 第一部・第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 熾火(おきび)
「栄佐さん、ちょっとお邪魔して良いかしら」
控えめに声をかけても、返事はない。小紅は溜息をついて、振り返った。龍馬が目顔で頷いたので、構わず障子を開けた。
栄佐はやはり在宅していた。その時、小紅はハッと胸をつかれた。こちらに横顔を見せていたので、表情は判らなかったが、彼が手にして食い入るように見つめていたのは錦絵だった。むろん、栄佐自身―女形の板東碧天を描いたものである。
控えめに声をかけても、返事はない。小紅は溜息をついて、振り返った。龍馬が目顔で頷いたので、構わず障子を開けた。
栄佐はやはり在宅していた。その時、小紅はハッと胸をつかれた。こちらに横顔を見せていたので、表情は判らなかったが、彼が手にして食い入るように見つめていたのは錦絵だった。むろん、栄佐自身―女形の板東碧天を描いたものである。