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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第14章 第一部・第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 熾火(おきび)
 それから彼は小紅を宥めるのにさんざん苦労しなければならなかった。幕末の風雲児と謳われた坂本龍馬も小紅の涙には打つ手がなかったということなのかもしれない。
 漸く小紅が泣き止んだ時、龍馬がそっと呟いた。
「満更、全部嘘というわけでもないけんど、惚れた男のおる女に手を出すわけにはいかんからのぅ」
 もちろん、その呟きが小紅の耳に届くことはなかった。
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