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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第20章 第二部・第四話【悲願花~女になった男~】 定命
「栄佐さん」
そのか細い哀願ともとれる響きに、栄佐は我に返り、小紅を見つめた。
「栄佐さん、怖いわ。何か変、いつもと違うみたい」
栄佐は小紅をじいっと見た。泣き出す寸前のように潤んだ黒曜石の瞳、口づけをねだっているような珊瑚色の蠱惑的な唇。
そこにいるのは男を誘っているのではなく、これから起ころうとする出来事に対して臆病な野ウサギのようにひたすら怯えている少女だった。