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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第20章 第二部・第四話【悲願花~女になった男~】 定命  
 栄佐はなされるままになっている。しばらくして、小紅の頬に栄佐の頬が押し当てられた。その頬が濡れていることに気づき、小紅はハッとしたが、敢えて何も言わなかった。
 彼の流す熱い滴はその後もしばらく、栄佐の頬を濡らし、小紅の頬をも濡らした。
 ひたすら栄佐を抱きしめる小紅の瞳に、江戸の黎明の空が一杯にひろがっている。今日も暑くなりそうな気配を漂わせて、夜の名残をとどめる空は次第に東から茜色に染まりつつあった。
 長い夜が、明けたのだ。
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