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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち
「ご隠居、私ももう歳を取りました。一昨年嫁いだ娘にも今年、孫が生まれたので、そろそろ潮時かなと思いましてね。これからは家内と二人で気随気儘に暮らしますよ」
「何じゃ、お前さん、いつまでも若く見えるが、もう孫ができたのかえ」
「五十で初孫は遅い方ですよ、お恥ずかしい」
そんなひそやかなやりとりがふっとかき消えた。
僧侶たちの読経が始まったのだ。読経が始まってからしばらく経った頃、並みいる弔問客の間を真っすぐに進んでくる者がいた。
「何じゃ、お前さん、いつまでも若く見えるが、もう孫ができたのかえ」
「五十で初孫は遅い方ですよ、お恥ずかしい」
そんなひそやかなやりとりがふっとかき消えた。
僧侶たちの読経が始まったのだ。読経が始まってからしばらく経った頃、並みいる弔問客の間を真っすぐに進んでくる者がいた。