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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち
「何ということを」
「あれは?」
「難波屋さんの跡取りですよ」
「後を託す倅があの有様では、難波屋さんもさぞ心残りだったでしょうね」
 あちこちで漣のように囁き交わされる言葉。
「あの跡取りは気でも触れておるのかな、京屋さん」
 生糸問屋の隠居は露骨に眉をひそめた。
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