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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち
「さあ、連日、吉原で流連(いつづけ)を決め込んでいたという札付きの放蕩息子らしいですよ。まだ十五だといいますが」
 京屋は低めた声で応じる。
「何とまあ。十五で吉原に流連とは、こりゃまた、よほどの大物か、もしくは大阿呆じゃろうて」
 隠居は最早、呆れ果てて物を言う気もなくなったようであった。
 その時、小紅は唇を固く噛みしめて最前列に端座していた。人々の囁き声は小紅にまで届いていた。
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