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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第3章 【残り菊~小紅と碧天~】 旅立ち
夜目にも鮮やかな緋色の椿が大輪の花をたっぷりと付けてひそやかに息づいている。その色は先刻、彼女自身が傷つけた男の流した血にも似ていた。
ひらり、と、風もないのに、深紅の花片がひとひら、雪の上に舞い落ちる。それはあたかも、人が流した血が純白の雪を染め上げるよう。
その禍々しいほどの美しい色は小紅の視界を真っ赤に染め、小紅はくらりと軽い目眩を憶えた。だが、今はまだ、ここで失神することはできない。