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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第6章 【残り菊~小紅と碧天~】 運命が動き出す瞬間
 まだ、水は半分ほど入っている。小紅から三和土に立っている男までの距離なら、投げて当たる確率は五分五分といったところか。
 小紅は男の方を睨みつけたまま、そろそろと手を伸ばし盥を手にした。次の瞬間、盥を男に向かって勢いよく投げつける。
「わぁっ」
 男が蛙の潰されたような声を上げて、無様に転倒した。
 その隙に小紅は男の傍を通り抜け、長屋前の路地裏に出た。
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