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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第6章 【残り菊~小紅と碧天~】 運命が動き出す瞬間
小紅はそのまま脱兎のごとく走り始めた。路地裏のどぶ板を踏みならし、長屋の木戸を抜け、走る、走る。気が張っているせいか、微熱があってふらついていたはずなのに、身体には何か不思議な力が漲っているようであった。
夜着姿の少女が真昼の往来を駆けてゆくのは異常な光景ともいえるが、少し距離を置いて、びしょ濡れのならず者が額から血を流しながら追いかけていくというのもまた、かなり非日常的だ。