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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第6章 【残り菊~小紅と碧天~】 運命が動き出す瞬間
大通りに出ると、行き交う人は何事かと皆、振り向いたり立ち止まったりして、この奇妙な追いかけっこを眺めている。中には無責任に走り去る小紅に声援を送る中年の男もいた。
「よっ、姉ちゃん。頑張れよ」
「随分と健脚だねぇ。女飛脚にでもなった方が良いんじゃねえのか?」
まだ二十歳過ぎの大工がはやしたてる。
そんな珍妙な鬼ごっこを繰り返し、小紅が追っ手を振り切って飛び込んだのは何と両国広小路の安田座、芝居小屋であった。
「よっ、姉ちゃん。頑張れよ」
「随分と健脚だねぇ。女飛脚にでもなった方が良いんじゃねえのか?」
まだ二十歳過ぎの大工がはやしたてる。
そんな珍妙な鬼ごっこを繰り返し、小紅が追っ手を振り切って飛び込んだのは何と両国広小路の安田座、芝居小屋であった。