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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第7章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】
「お待たせして申し訳ありません」
男は小紅を認めると、更に急ぎ足になった。
小紅は内心の不快感はおくびにも出さず曖昧に微笑んだ。
「いいえ、京屋さんほどの大店ですから、よほどのご事情があるのかと今、お暇(いとま)しようと思ったところです。私の方こそ、ご多忙のときにお伺いしてあい済みませんでした」
「いや、もう店の方は落ち着きましたから」
「でも、出直した方が良いと思いますので」