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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第7章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】
とりあえず今日のところは、これで帰ろうと小紅は手にした包みをしっかりと抱え直す。京屋は江戸でも五指に入るといわれるほどの大店(おおだな)である。内儀(おかみ)のお彩(さい)は心映えの優れた女性だから、客人をこんなに待たせるなど考えられないことだ。よほどのこみ入った事情があるに相違なかった。
小紅が開け放した障子から廊下へと出たまさにその時、向こうから長身の若い男が歩いてくるのが見えた。