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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第7章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】
 新しい主人となったばかりの市兵衛は幼名を徳太郎といった。父のように奉公人上がりではなく、生まれながらの京屋の跡取りとして大切に育てられた苦労知らずという声もある。だが、先代は長男を十歳から十五歳までの間、大坂の親類筋の店に預けて奉公させた。手許に置いているよりは他所(よそ)のお店に奉公させた方が良いと判断してのことだ。
 その店は遠縁に当たるが、先代は徳太郎を一般の丁稚と同列に扱って欲しいと頼み、徳太郎は特別扱いはされず、厳しく商売人としてのあれこれを仕込まれた。
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