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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い
「京屋さん」
 小紅は唇を噛み、伏し目がちになった。こんな話を聞いてしまった後で、馴れ馴れしく市兵衛さんと名を呼べるはずもない。
「お気持ちはとてもありがたいとは思いますが、私は多分、京屋さんのお気持ちにお応えすることはできないと思います。それに、あまりに突然のお話なので、何とお応えしたら良いかどうか」
 市兵衛は静かな情熱を秘めた瞳で頷いた。
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