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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い
 今はもうこの世にいない乳母、優しかった乳母の懐かしい顔が甦ってきて、次いで真冬の寒さにかじかんで冷たくなった彼の小さな手を自らの手に包み込み少しでも温もりを取り戻そうとしてくれた優しい記憶が押し寄せる。
 朱塗りの優美な塔は純白の雪を戴き、周囲の樹々や土もうっすらと雪を被っていた。雪は依然として降り止まず、傘を差した乳母に手を引かれて歩く度に、新雪を踏みしめる小気味の良い音がサクサクっと聞こえた。
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