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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第8章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 すれ違い
彼が〝爺〟と呼んで祖父のように慕っていた源五郎は今も用人として当主不在の角倉家を懸命に盛り立てようと努めていると風の便りに聞いた。既に七十が近くなっているであろう源五郎のことを思えば心が痛むが、今の栄佐にはどうしようもないことばかりであった。
栄佐はもう二度と角倉家に戻るつもりはない。直参旗本八千石の当主の座も何もかも屋敷を出るときに棄てた。彼自身に角倉家に戻る気がないのなら、幾ら源五郎の苦衷を思いやっても意味のないことである。
栄佐はもう二度と角倉家に戻るつもりはない。直参旗本八千石の当主の座も何もかも屋敷を出るときに棄てた。彼自身に角倉家に戻る気がないのなら、幾ら源五郎の苦衷を思いやっても意味のないことである。