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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第9章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 嫉妬
「何か特別なお話でもあるのでしょうか?」
 もしかしたら、仕立物の出来が良くないから、もう仕事は頼めないとか? 小紅は心もち蒼褪め、お彩の言葉を待った。
「まあ、そんな今にも泣きそうな表情をしないで。あなたにそんな顔をさせていると知れば、徳太郎が血相変えて飛んできますから」
 母であるお彩はいまだに京屋の主人となった息子を幼名で呼ぶらしい。何故、ここに市兵衛の名前が出てくるのか、小紅は解せず、お彩を眼を見開いて見つめた。
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