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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第1章 【残り菊~小紅と碧天】 始まりは雨
「ええ、それはもう。あの若旦那さまお一人を残して今は死ねないとご自分のお身体には人一倍気を遣っていらっしゃいます。でも、昨日、旦那さまがこんなことを仰せでしたよ」
―準平はどうしようもない男だが、小紅が女房となってくれれば、先行きも安心だ。小紅は兄さんに似てしっかり者だし、気働きもできる。その上、心優しい娘だから、この難波屋を安心して託せる。私ももう、いつでも安心して死ねますよ。
 就寝前の薬湯を運んだ際、武平はふとそんなことを呟いたという。
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