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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第10章 第一部・第二話【赤とんぼ~小紅と碧天~】 心の嵐
お彩の言葉は既に小紅の返答を予期していることを十二分に示していた。
お彩は名残惜しげに小紅を見つめた後、静かに席を立った。
市兵衛が笑った。
「お袋も既にあなたの返事は覚悟しているようだ。だから、あなたが何も気兼ねすることはないんですよ、小紅さん」
小紅は眼に熱いものが溢れるのを感じた。こんな良い人たちを自分は騙そうとした。それは自分の心を偽るよりも数倍も万倍も罪なことだ。