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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第12章 第一部・第三話 【月戀桜~つきこいざくら~】 十六夜の月
ただ、娘の自分が見てもお世辞にも男前とも言えない父が早晩、若い女に棄てられるのは明白だ。それも相手の女お佐津は岡場所でも名うての悪として知られていた。何人もの男をくわえ込み、金蔓として良いように操っていた稀代の性悪なのだ。
そんな女が父のように商いしか能のない男に本気で惚れるはずもない。女の目当ては上州屋の金に他ならず、持ち出した金が尽きたところで、父は棄てられる。