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サイドストーリー
第13章 好きと言って③
「オヤジは継ぐなら商学部に行けといったけど
じいちゃんが俺の好きな文学部に行かせてくれたんだ。
本当に感謝してる。オヤジにとっては国文科なんか男の行くとこじゃないから。
4年間好きに勉強させてもらったよ」

「それぐらいはさせてやらねぇとな」
にやっと笑うその顔に刻まれたシワは
俺の味方だと言っているようで好きだ。

「ただ、お前、ほとんど休まねぇで。遊んでねぇから。若いのによ」
「いいんだ。俺は」

梨乃を忘れるためにどんなに忙しく仕事をしても
どんなに肉体的な仕事をしても
忘れることなんかできなかった。

「蓮、お前好きな女がいたんだろ?」
「は?」
「見てりゃァ分かる。振られたか?」
「・・・・・」
「酒屋の後継は嫌だと言われたか?」
「・・・言われねぇよ」
「んじゃなんで、今一緒にいねぇんだよ」
「いろいろあんだよ」

「色恋にじいちゃんが口出すことはしねぇがよ
人生は1度きりだ。好きな女に好きだって言わねぇで
お前人生終わるつもりか?」
「・・・・」

俺が何も言わないでいるとニヤッと笑って

「めぇさませ。店なんか開けてる場合じゃねぇぞ」

なんて言いながら店の奥に引っ込んだ。
あぁ。「昔、色男だったんだよ」と死んだばあちゃんがよく言ってたっけ。

忘れたことなんか無い。
今でもあの頃と変わらず好きだ。

自分自身に冷笑して
行動を起こすこともなく
忘れることもない梨乃を思った。


梨乃―――
お前は俺を忘れたか?
俺は今でもずっと好きだよ。


思ひ出すとは忘るるか 思ひ出さずや忘れねば

――「思い出す」というのは忘れていたからだ 
 忘れることがないのだから「思い出す」こともない――
(閑吟集85)



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