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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第19章       

常と変らぬ朝練を終え戻ったヴィヴィは、昼食を挟みつつ試験勉強に明け暮れていたが、

カレッジのチュートリアルを終え戻ってきたフィリップが「ただいま~~」とかつて知ったる我が家のようにヴィヴィの私室に入ってくると、ペンを持つ手を止めて彼に向き合った。

「お帰りなさい」

「ん。ヴィー、変わりはなかった?」

「うん、大丈夫」

「なら良かった。さっき、朝比奈にコーヒー頼んだけど、ヴィー、紅茶の方が良かった?」

「ううん、コーヒーが良い」

「そ」

短く頷いて笑ったフィリップは白革ソファーにドカリと腰かけると、長過ぎる脚を邪魔そうにしながらローテーブルに教材を広げ、

チューターに指摘された事でもあったのか、レポート用紙の束と睨めっこし始めた。

自分も速読を再開しようとしたヴィヴィだったが、それではいけない気がした。

おそらくフィリップは、事の顛末をクリスから聴いただろう。

長兄が末妹に暴行をはたらいた――と。

たぶんそこには、性的な意味は込められていないのだろうと思う。

けれど、フィリップは彼氏だ。

自分から「付き合う?」と提案し、出来た恋人だ。

だから、己は説明責任を果たさないといけないし、彼には知る権利があるだろう。

自身が犯してきた過去の過ちと、それによって狂わされた実兄の家族のことを。

「フィリップ」

「ん?」

「あのさ……」

「うん」

ライティングデスクに向かったまま背中越しに話しかけるヴィヴィに、応える方のフィリップも生返事だった。

だが、

「私が……付き合ってた人って――」

「知っていたさ」

そうきっぱりと即答した声の強さに、ヴィヴィは咄嗟に「え?」と椅子から振り返る。

「そんなの知っていて当然でしょ。オックスフォードに留学して、君を見つけて。直ぐに調べさせた、ヴィーのこと」

「………………」

肩まであるやや癖毛の金髪をかき上げながら欠伸を噛み殺している相手に、ヴィヴィはハトが豆鉄砲を食らったような心持ちになる。

(知ってた……? って、私達のことを……?)

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