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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

 匠海の分身を舌で愛したい――。

 そう願ったヴィヴィに、何故かその人はあまりいい顔をしなかった。

 させてくれても、いつも1分間だけで。

 今日は2分間、兄を舌で愛したいと強請った妹に、

『駄目。じゃあ、間を取って、1分半』

 そう言って、長い時間 舐める事を許可しなかったのは、

 舌で愛する行為が、思いの外 疲れると解っていたからだろうか――?

『あぁっ 駄目だよ、ヴィクトリア……、そんなもの、咥えては……っ』

『可愛いね、ヴィクトリア。ほっぺが真っ赤だ』

 幸せそうに笑ったその顔が、涙で滲む視界に浮かび上がって。

「……――っ」

 一生、知りたくなど無かった。

 匠海以外の男の、肌の感触、舌触り、味、香り。

 なのに、

「ああ、もういいですよ。とてもお上手ですね、お嬢様」

 上から降って来た言葉に、涙でぐちゃぐちゃの顔が、その言葉の主を振り仰ぐ。

 やっとこの男から解放される――。

 そう思って脱力しかけたヴィヴィに続けられたのは、

「でも、これでは満足出来ません」

 そんな無慈悲な言葉だった。

「いやっ!! や、約束したじゃないっ」

 赤くなった目で睨み上げながら、先程の取引を主張するヴィヴィに、

「ここまで来て引き下がる男がいると、本当にそう お思いなら、お嬢様はとんだ世間知らずですよ」

 返された自分の浅はかさを詰る言葉に、文字通り目の前が真っ暗になった。

「……お……、お兄ちゃんっ 助けて……っ」

 最後の最後、

 ヴィヴィの唇から零れた、助けを呼ぶ声は、

 自分を裏切った、元恋人の名前。

「 “お兄ちゃん” ……? 匠海様ですか? いらっしゃいませんよ。そんなことより、私の名前を呼んでください。リーヴと――」

 甘い声音で囁きながらも、必死に抗う華奢な躰を、再びシーツの上に組み敷いた執事。

 絶体絶命。

 そんな在り来りの四字熟語が、脳裏に過った。

 その瞬間、

「キャ――っ!! 助けてっ 誰かっ!! お願い――っっ」

 白い咽喉から絞り出されたのは、耳をつんざく甲高い悲鳴。

 もう殴られようが蹴られようが、

 この男に自分の全てを奪われる事に比べれば、どうでも良かった。

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