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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

 誰か――、屋敷の前を通る人間にでも届けば。

 幸か不幸か、築年数の経過したこの屋敷ならば、外にいる誰かに声が届くかもしれない。

 細い身体に宿る渾身の力を振り絞り、ヴィヴィは悲鳴を上げ続けた。

 「キャーキャー」超音波の如く叫びまくるヴィヴィを、

 さすがに焦った様子のリーヴが掌で口を覆ってくる。

 が、ヴィヴィはその最後の好機を見逃さなかった。

 開けた口に入って来た薬指に思いっきり噛みつき、

「――っ!? っくそ……っ」

 噛まれた指を咄嗟に反対の手で握り締めたリーヴが口汚く罵る中、

 ヴィヴィは何度目になるか判らぬ逃亡を図る。

 拘束された両腕と、何とか動き始めた両脚でベッドの反対側へと這って逃げ。

 言う事を聞かない両脚を叱咤しながらベッドから降り、

 焦りながらも壁伝いに、少しでも遠くへと逃げる。

 もう厭だ。

 あんな男に、指一本さえ触れられたくない。

 白と水色のストライプのシャツワンピを肩から引っ掛けたヴィヴィが、両腕を拘束されたままでライティングデスクに辿り着けば。

 ぎしりと大きな音を立て、白いベッドから降りるリーヴが視界に入る。

 咄嗟に引き出しを開けたヴィヴィは、見た事の無い恐ろしい表情でこちらへ歩を進めてくる相手に、その中身を投げ付けた。

 ペンやメモ帳、そんな軽い物しか入っていないそこには、相手を足止めする物は見つからず。

 急いで本立てから分厚い書物を引っ張り出し、渾身の力で投げ付ける。

 けれど、相手は片手で書物を払い落とすだけで、何の痛手も被っていなくて。

「来ないでっ!!」

 必死にがなり立てる高い声。

 まるで、ひ弱な獲物を狩る愉しみを先に引き延ばすように、じりじりとにじり寄ってくるリーヴ。

 退路を求めて辺りを見回しても、部屋の扉までかなりあって。

 いつものヴィヴィならまだしも、腰抜け状態の自分では、そこに辿り着く前に確実に相手の手に堕ちる。

 そして、視線の先にあった金色に光るもの――。

 床に散らばっていた文房具を、ヴィヴィさっとしゃがんで掴み上げた。

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