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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第3章   

 視界に入った匠海は、心底眠そうで。

 差し込む日光にさえ目に染みる――とでも言いたげに、目をしぱしぱさせていた。

「……ベッドで、眠れば……?」

 何故か解らないが、そんなに眠いならば、寝室で数時間眠ったほうがいい。

 視線を外しながら、当たり前な助言をした妹に、

「ん~~、ヴィヴィを抱き枕にしていいなら、ベッドに行くけど?」

 甘えた声音で囁きながら、腕の中の妹を覗き込んで来た匠海。

 少し充血した瞳とばっちり目が合た途端、ヴィヴィの頬がかっと火照り。

 咄嗟に顔を背けた妹は、蚊の鳴くような声で否定した。

「……ダメ……」

 冗談でも、そんな事を口にすべきじゃない。

 普通の兄妹が、同じベッドで寝る筈が無いだろう?

 つい先程、

『 “冥途の土産” に “お兄ちゃんの咽喉仏” を――!!』

 そう主張していた自分を とんでもなく棚上げし、ヴィヴィは正論を述べた。

「じゃあ、このままでいい」

 妹の返事に異論を唱えなかった兄は、本当にその言葉通り、

 5秒後には、オフホワイトの背凭れに黒い頭を預けて眠りこけていた。

(ウ、ウソ……。本当に、寝ちゃった……)

 すーすーと微かな寝息を立てる匠海に、ヴィヴィはしばらく呆気に取られていた。

 しかも、数分経っても起きるどころか、

 自分を繋ぎ止めるその人は、更に深い眠りに就き始めていた。

 しばらくは、そんな兄を困った様子で見上げていたヴィヴィ。
 
 やがて時間が経つにつれ、

 火照っていた頬の熱が、徐々に引き。
 
 さざ波が立っていた心が、まるで鏡面のように凪いで。

「………………」

 常の自分を取り戻したヴィヴィは、

 恐るおそる、元々凭れていた兄の逞しい胸に、半身を預けた。

 あの頃よりも、丸みの減った頬に感じるのは、

 トクトクと規則正しく刻む鼓動に、
 
 呼吸に合わせ、微かに上下する胸板。

(大丈夫……生きてる……。

 お兄ちゃんは、ちゃんと、生きている……)
 
 そんな当たり前の事を確認し。

 もう一度、兄の寝顔を振り仰ぎ。

 そうして、長い睫毛を湛えた目蓋は、ゆっくりと伏せられていく。

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