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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章     

 薄い胸の奥、無力で小さな自分が、地団駄を踏んで喚いていた。

 生きたい。

 生きたいよ。

 恋人だった匠海に捨てられた時だって、

 自分はそれでも、生きたいと願った。
 
 やりたい事、やるべき事は、

 両手で足りないくらい、まだまだ沢山あった。
 
 なのに、あの夜。

 自分という人間の本質を奪われ、

 身も心も恥辱で塗り潰され、前後不覚になり。
 
 そして、自ら命を絶とうとしてしまった――。

「……わ、たし……、生きたい……」

 薄い唇からぽつりと零れた、ヴィヴィの本心。

 その言葉に、一番派手に号泣していたのは、女装姿のダリル。

 きっと、ヴィヴィが親族以外の男を傍に寄せたくないだろうと、思ったのだろう。

 そんな心境でも無かっただろうに、女としていてくれたダリルに、

 ヴィヴィも抱き着いて、豪快に泣いて。
 
 そして、破顔した。

「あははっ ダ、ダリルっ 涙で顔、真っ黒~~っ!!」






 父方の祖父から、事の顛末の説明を受ける事になって。

 リビングに移動してやっと、ヴィヴィは気付いた。

「……――っ」

 息を飲み、少し充血した瞳が真ん丸になりながらも、見つめるその先にいたのは、

「お嬢様。お帰りなさいませ」

 以前と変わらぬ優しい声音で囁く、その人。

「朝比奈……っ」

 黒のスーツに身を包んだ執事は、ほっとした表情を浮かべ、

「お嬢様、再会のハグをしても――」

「あ゛~さ゛~ひ゛~な゛ぁ~~っ!!」

 律儀に「再会のハグをしても宜しいですか?」と尋ねようとする執事に、

 ヴィヴィは一目散に飛んで行って、その胸の中に飛び込んだ。
 
 「ハグをしてもいいか?」だなんて、しても良いに決まっている。

 しても良い。

 ただ、朝比奈が、

 自分に触れるのが、嫌、じゃなければ――。
 
 力強くぎゅうと抱き寄せてくれる、朝比奈の腕が嬉しくて。

 引っ込んだ筈の涙が溢れそうになって、ヴィヴィは慌ててその胸の中から飛び出した。

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