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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第5章    

 静まり返った私室のリビングで、ヴィヴィは手にしていた錠剤のシートから1粒 取り出し、

 それを残り少ないコップの水で飲み下し、またバスルームへと戻る。

 歯を磨きながらも、夏用の薄いナイトウェアに包まれた胸中では、敗北感が滲み始めていた。


 見られた。

 よりにもよって “あの匠海” に――。

 どうしてこのシートは、こんなにも判り易い作りなんだろうか。

 4×7個 並んだ錠剤のシート。

 こんなもの、兄だったら遠目にちらりと見ただけでも、判別出来たろう。

 「ああ、あの子は “ピル” 飲んでたんだ」――と。



『どうして? いつも中出し、してるだろう?』

『掻き出せばいいだけだろう? ほら、いっぱい呑み込め』



 小さな頭の中に蘇える悪夢。

 また同じことを繰り返すのか――?

 全くもって、自分も兄も、成長しない生き物だ。

 そんなとこだけは似ているのだから、本当に手に負えない。


 ただ、

 独り、じゃない。

 そこに匠海がいて、

 そして、

 どこまでも振り回される自分がいて。


「………………」

 口をゆすいだヴィヴィは手早く支度を済ませ、階下へと降りて行く。


 無関心に “居ないもの” として放置されるのと、

 酷く扱われても “欲しい” と執着されるのと、

 一体、どちらの方が “幸福” なのだろうか――?


 玄関ホールに横付けられた白い愛車に乗り込んだヴィヴィは、見送ってくれる早番の執事に「行ってきます」と元気よく発し、

 そしていつも何ら変わりなく、朝の練習へと出発して行った。






 10時に氷上練習を終えたヴィヴィは、一旦屋敷へ戻った。

 荷物を片してシャワーを浴びて、ヴァイオリンでも触ろうかと階下を目指せば。

「まごむすめは おばあさんを ひっぱって、

 おばあさんは おじいさんを ひっぱって、

 おじいさんは かぶを ひっぱって……」

 通り掛かったライブラリーから漏れ聞こえてきたのは、五十嵐の声。

「…………?」

 不思議に思いちらりと覗けば、ライブラリーの床に座り込んだ五十嵐が、匠斗を胡坐に乗せながら絵本を読んでいる最中だった。

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