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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第5章    

『Hier ist Briefpapier.
 ――さあ、便箋よ』

 兄の顎から指を離したヴィヴィは、美しい輪郭を指先で辿り、

『Ich kann nicht schreiben...
 ――書く力なんて、ないよ……』

 ルルの養父 兼 愛人の、シェーン博士のセリフをなぞる匠海の、耳元に唇を寄せる。

『書かなきゃダメ』

『できない……』

 言葉とは裏腹に、兄の発した声は幸福そのもので。

『「親愛なる、貴女様――」』

 ベッドヘッドにぐったり背を預けた匠海が、灰色の瞳を潤ませていた。

『……俺の、死刑 “宣告” が出た……っ』

『「どうか、これまでのお約束をお取り下げください」

 「私の良心は……」』

 手紙の文面をなぞる妹に、本来なら兄が向けるべきは、

 “慈悲を請う哀願の眼差し” であるべきなのに。

『書きなさい。

「私の良心は……・私の怖ろしい運命に、

 貴女を縛り付けることを、私に許さないのです」』
 
 シャツの薄い生地越し。

 指先――と言うよりは爪の先で、逞しい胸筋を擽れば、

『その通りだ……。確かに、そうだ』

 妹の真っ白な乳房に同じ悪戯をしたそうな兄が、心ここに在らずな様で続ける。

『「貴女には言わねばなりません。私は、貴女の愛には――」』

 小さな歌声を途切れさせたヴィヴィは、意識して中の匠海を締め付け。

「く……、~~っ」

 苦しそうな声を漏らす男の白いタイを、ゆっくりと解いていく。

『書きなさいよ。

「私は、貴女の愛には値しない男なのです。

 この文面が、何よりの証拠です……。

 3年間、私は身を離そうと もがき続けてきました……。

 ですが、そう出来る力はありませんでした。

 今これを書いているのも “私を支配するその婦人の傍” なのです。

 もう私のことは忘れて下さい――!

 ドクター・ルートヴィッヒ・シェーン」』

 解いたニットタイを己の細首にくるりと巻き付け、

 ぷちぷちとボタンを解き、ギンガムチェックのシャツの襟を開いていく。

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