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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第6章     

 英国へ戻り5日ほど経過した、8月も半ば。

 オックスフォードSCのロッカールームでは、

 メールの着信に気付いたヴィヴィが、スマホ片手に立ち尽くしていた。



『Title:親愛なる ヴィクトリア
 
 Letter:

 昨夜は2ndループの調子、良かったようだね。

 気合の入ったガッツポーズを観て、笑ってしまったよ。

 ここ数日、テレビでお前のCMが流れる度に、

 匠斗が指差して「び」って言ってる。

 あまり無理しないように、頑張りなさい。

 おやすみ』



 そのメールの送り主は、言わずもがなの匠海で。

 昨夜の23時(日本時間:今日の7時)に届いたらしかった。
 
 さらりと文面に目を通したヴィヴィの灰色の瞳は、当然、当惑に曇る。

(ちょっとした、ストーカー、みたい……)

 困った事に。

 ヴィヴィが渡英した翌日から、兄から毎日必ず1通、メールが届くようになってしまっていた。

「………………」

 小さく嘆息しながらも、細い指は迷う事無く、目を通したばかりのそれを削除していた。

 一体、どういうつもりなのだろうか?

 遠い異国にいる妹に、毎日メールを送るだなんて、面倒 以外の何物でもないだろうに。

 もちろん自分からは、返信なんてしていないし、これからもするつもりは無い。

 よって、全くの一方通行でしかないその連絡を、

 匠海は後どれくらいの時間を経れば、厭きて辞めてくれるのだろうか。






 クリスと一緒に、念入りにストレッチを行い。

 そろそろ揃い始めたリンクメイトと、賑やかに朝の挨拶を交わし。

 そうして脚を踏み入れた、リンクアリーナの1つ。

 両サイドの壁に2台ずつ、計4台設置された旋回型のカメラに見下ろされながら、早朝の滑り込みを始めた。

 外気温も低いので、リンクの中は涼し過ぎるほど。

 双子が監修し、デザインアイデアを出したジャージー・ジャケットを羽織ったまま、

 慎重に身体を温め、昨夜 得た良い感覚を取り戻していく。
 
 ゆったりと左腕を持ち上げながら、バックで加速していけば、

 どうしても視界に入る、自分達をどこまでも追いかけてくる高感度カメラ。

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